薬はできるだけ少ない種類、量で飲むことが大切です。
同時に2種類以上の薬を飲み始めた場合、症状に改善や変化があっても、どの薬の効果なのか判断することができません。そのため原則として、軸になる薬は1種類から飲み始めます。
皆さんの中には、「いろいろな症状があるのに1種類の薬で大丈夫なのか?」と疑問に感じる方もいるでしょう。しかし多くの場合それで問題はありませんし、2種類の薬を併用する必要があるのは一部の方だけです。
また後述するように、薬の効果には限界がある場合も多々あります。
このことを理解しておけば、多剤併用による弊害(いろいろな症状を改善しようと多くの薬を飲んだけれども、結局良くならないという問題)を避けることができます。
精神安定剤(向精神薬)には大切な軸になる薬と、補助的に用いる薬の2つに大別できます。
軸になる薬としては、抗精神病薬(統合失調症の薬)、抗うつ薬(うつ病や不安・緊張に対しての薬)、気分安定薬(躁うつ病の薬)があります。 これらの薬は、人によって効果に違いがあります。いくつかの薬を試しながら、自分にとって一番相性のいい効果的な薬を見つけることが大切です。また軸になる薬には即効性はなく、数日~1か月ほどかけて効果が出てくるため、依存性はありません。
一方、補助的な薬としては、抗不安薬(不安・緊張に対しての薬)、睡眠薬(不眠の薬)があります。
これらの薬は、誰でも同じような効果が得られるため、飲む前からある程度その効果を予測することができます。即効性があり多少の依存性はありますが、医師と相談しながら適切に服用すれば安全に利用することができます。
精神科や心療内科では、病気の種類や症状によって、薬の効果には大きな違いがあります。
例えば統合失調症の幻覚や妄想、うつ病(非定型うつ病は除く)や双極性障害によるうつや躁の症状、不安障害・パニック障害の不安発作(パニック発作)、過呼吸、不眠などの症状は、薬での改善が十分期待できます。
統合失調症では抗精神病薬を、うつ病では抗うつ薬を服用することが最も大切です。パニック障害では不安・緊張に対して効果のある抗うつ薬が役立ちます。抗うつ薬の効果が不十分なときは、抗不安薬を併用することもあります。
また、不眠があれば睡眠薬を補助的に用います。
一方、薬の効果に限界があるのは、例えば非定型うつ病、強迫性障害、摂食障害(過食嘔吐)、自傷行為、衝動行為などの行動化、過眠などの症状です。薬は万能ではないことを十分理解した上で、薬を利用していくことが大切です。 このような対人関係に根差した症状については、心理療法・精神療法により時間をかけて自己理解を深めていくことが役立ちます。
上述したように薬には相性があり、しかもその効果が現れるまでには時間がかかります。
軸になる薬の多くは、効果が出るまでに1週間ほどかかります。少量から飲み始め、毎週経過を見ながら副作用にも配慮し、症状が改善するまで少しずつ量を増やしていきます。ある程度十分な量まで増やしても効果が不十分であれば、別の薬に変更していきます。
このようにして薬の調整を行えば、必要最小限の種類、量で服用することができますが、調整が完了し症状が和らぐまでに約2~3か月かかります。医師と相談しながら焦らずじっくりと治療に取り組むことが大切です。なお、薬の副作用あるいは減らし方などについてはまた別の機会に述べたいと思います。